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GHS・SDS・法規制ニュース

GHS分類、SDS作成、化学品管理に関連した各国の法規制情報をご提供いたします。

国連

国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)は、2023年に実施したアントラセン、2-ブロモプロパン、ブチルメタクリレート、ジメチルホスファイトの発がん性評価について、IARCモノグラフを公表した。

アントラセン
  • 用途:主に染料(アントラキノン系製品およびアリザリン染料)、木材防腐剤、農薬、精密化学品、実験室用化学品、医薬品の製造中間体として使用される。
  • 発がん性評価:ヒトにおける発がん性について、利用可能なデータは認められなかった。
    動物実験では、アントラセンは、2種(マウス、ラット)において良性や悪性腫瘍の発生率が増加した。マウスに経口投与すると、雌に、肝臓の肝細胞腺腫、腺がんや組織球肉腫の発生率が増加した。ラットに経口投与すると、雄に、肝臓の肝細胞腺腫、腺がん、尿路上皮細胞の乳頭腫、がんが増加し、雌に、腎臓の腎細胞腺腫、腺がん、子宮の子宮内膜間質肉腫の発生率が増加した。雌雄のトランスジェニックラット(Hras128)および非トランスジェニックラットに経口投与すると、雄のトランスジェニックラットでは、乳腺腺腫、腺がんが増加した。
  • これらの結果から、IARCはグループ2B(possibly carcinogenic to humans)に分類している。
2-ブロモプロパン
  • 用途:アルキル化剤として医薬品の合成に使用されるほか、染料、農薬、その他の化学物質の中間体としても使用される。
  • 発がん性評価:ヒトにおける発がん性について、利用可能なデータは認められなかった。
    動物実験では、ラットに吸入ばく露した結果、雌雄に、ジンバル腺(腺腫、腺がん)、皮膚(基底細胞がん、扁平上皮がん等)、皮下組織(線維腫、線維肉腫)、大腸(腺腫、腺がん)、脾臓(単核細胞白血病)、膵臓(ラ氏島腺腫、腺がん)、雄に、小腸(腺がん)、悪性リンパ腫、胃(扁平上皮乳頭腫、扁平上皮がん)、包皮腺(腺腫、腺がん等)、甲状腺(濾胞腺腫、腺がん)、脳(神経膠腫)、雌に、乳腺(腺がん、腺扁平上皮がん)、膣(扁平上皮乳頭腫、扁平上皮がん)、陰核腺(扁平上皮乳頭腫、腺腫、腺がん)、子宮(腺腫、腺がん)に、腫瘍性病変の発生増加が認められた。
  • これらの結果から、IARCはグループ2A(probably carcinogenic to humans)に分類している。
ブチルメタクリレート
  • 用途:アクリルポリマーを作成するためのモノマーであり、コーティング、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、接着剤、コーキング剤、その他のシーラント、インク、塗料、農薬、ヘルスケア材料など、種々の製品に使用されている。
  • 発がん性評価:ヒトにおける発がん性について、利用可能なデータは認められなかった。
    動物実験では、2種(マウス、ラット)で良性、悪性腫瘍の発生率が増加した。マウスにおける吸入ばく露試験では、雄に、肝臓の肝細胞腺腫、腺がん、組織球肉腫が発生した。雌では、血管肉腫の発生率が増加した。ラットにおける吸入ばく露試験では、雄では、脾臓の単核細胞白血病、雌では、甲状腺のC細胞腺腫、腺がんの発生率が増加した。
  • これらの結果から、IARCはグループ2B(possibly carcinogenic to humans)に分類している。
  • ジメチルホスファイト
    • 用途;鉄鋼の腐食防止剤として、ピロカテコールと組み合わせて使用され、また医薬品(α-アミノホスホネート、アミノ酸のリンの類似物として)にも使用されている。繊維の難燃剤として、繊維の反応性難燃剤(グアニジンとホルムアルデヒドと組み合わせて)として使用されている。
    • 発がん性評価:ヒトにおける発がん性について、利用可能なデータは認められなかった。
      実験動物では、ラットにおける経口投与試験では、雄に、肺の細気管支腺腫、腺がん、扁平上皮がん)、前胃の扁平上皮乳頭腫、扁平上皮がん)が、雌では、胚の細気管支腺がんの発生率が増加した。
    • これらの結果から、IARCはグループ2B(possibly carcinogenic to humans)に分類している。

    参考資料

国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)は、アスパラテームの発がん性評価について、IARCモノグラフを公表した。また、今後、メチルオイゲノール、オイゲノールについても評価結果を公表する予定である。

アスパラテーム
  • 用途 : アスパルテームは、甘味料として、種々の食品、飲料に使用されており、さらに、薬品、化粧品、タバコなど、多くの消費者製品にも使用されている。アスパルテームの85 %~90 %が飲料用甘味料として、主にダイエット炭酸飲料に使用されている。チューインガムや卓上甘味料はそれぞれ5 %を占めている。アスパルテームには風味を増強する特性もあり、特に酸性の果物の風味に対して顕著である。世界中で約6,000種類の製品にアスパルテームが使用されていると推定される。

  • ヒトの疫学調査 : アスパルテームおよび人工甘味料入り飲料の摂取と発がん性との関連について、IARCは25種類の疫学調査を解析している。多くの調査ではアスパラテーム等の人工甘味料に関するばく露情報が不十分としているが、3つの有益なコホート研究(欧州、米国)において、肝臓がんの発生とアスパラテーム/人口甘味料の間に関連性が認められ、人工甘味料入り飲料の摂取量により、肝細胞がんの発症率が増加するとしている。一方で、既知の肝発がん物質に対するばく露の可能性も指摘されている。その他にも、乳がん、リンパ腫、膵臓がんとの関連が示唆されているが、十分な情報や一貫性がないため、因果関係の有無について結論を下すことはできないとしている。

  • 動物実験 : マウスとラットにおいて、良性/悪性腫瘍の発生が報告されている。マウスでは、アスパルテームは、周産期および出生後に経口投与(混餌)すると、雄では肝細胞がん、肝細胞腺腫、肺の細気管支腺がん、細気管支腺腫、リンパ芽球性白血病、単球性白血病、骨髄性腫瘍の発生率の増加が認められ、雌では、リンパ芽球性白血病が発生した。ラットの経口投与(混餌)では、雌雄で腎臓腎盂および尿管の上皮がん、雌で乳腺がんが発生した。雄では、単球性白血病、組織球肉腫、骨髄性腫瘍の増加傾向が認められた。ラットの周産期および出生後に経口投与(飼料)された雄ラットで悪性神経鞘腫、雌ラットでは乳腺がんおよび腎盂の乳頭腫が発生した。

    これらの結果に基づいて、IARCはアスパラテームを、グループ2B(possibly carcinogenic to humans)に分類している。

参考資料

OECD

OECDはペルフルオロポリエーテル(perfluoropolyether、PFPE)のライフサイクルに関する概要を総合レポートとして公表した。OECDのPFC グループ(per- and polyfluorinated chemicalsグループ)では、PFPEの実態を明らかにして、ライフサイクル (製造、用途、製品含有PFPE、PFPEの不純物として他のPFASを含有、分解メカニズム、PFASの放出等) を分析することを目的としている。この報告書ではPFPEのヒト健康と環境影響については言及されていない。

背景
1950年代から、ペルフルオロオクタン酸 (PFOA)やペルフルオロオクタンスルホン酸 (PFOS)等の多くのPFASが製造され、環境中での残留、ヒト健康・環境影響リスクが懸念されてきた。PFASは非ポリマーとポリマーに分けられるが、これまで非ポリマーPFASに危険有害性やリスク評価の重点が置かれ、側鎖フッ素化ポリマー、フルオロポリマー、PFPEなどのポリマーPFASに関する研究は限られている。PFCグループでは、ポリマーPFASに焦点を当て、PFPE等の情報収集に取り組んでいる。
PFPE
PFPEは、「フッ素が直接結合したエーテルポリマー骨格」と定義され、–CF2–O–CF2–などのペルフルオロエーテル部分が繰り返し単位として含まれるポリマーである。4つの主要なファミリーに分類される。
  • PFPE-K:六フッ化プロピレンオキシド(HFPO)のアニオン重合を低温で行うことにより合成される。平均分子量は1,000~13,500 Daである。

  • PFPE-Y:酸素存在下で低温で六フッ化プロピレンの光化学的触媒重合、即ち六フッ化プロピレンの光酸化により合成される。平均分子量は1,000~10,000 Daである。PFPE-Zは、PFPE-Yと同じプロセスで合成されるが、開始材料としてテトラフルオロエチレンを使用し、平均分子量は3,000~25,000 Daである。

  • PFPE-D:ルイス酸触媒またはフッ化物イオンによる2,2,3,3-テトラフルオロオキセタンの開環重合、続いてフッ素での直接フッ素化により合成される。平均分子量は2,000~10,000 Daである。

  • PFPE-A:ポリエチレングリコールのペルフルオロアシルフルオリドとのエステル化から始まり、部分的にフッ素化されたポリマーを得た後、フッ素での直接フッ素化を経てペルフルオロ化ポリマーが得られる。平均分子量は特定されていない。
市場・用途
現在153種類の PFPE が特定されており、内134種類にはCAS番号が割り当てられている。多くの PFPE の化学的特性に関する詳細情報は公開されていない。世界市場には他にもPFPEが存在する可能性があるが、化学構造、特性等は不明である。
PFPEは少なくとも 29種類の異なる産業分野において(航空宇宙、自動車、電子機器、食品包装、医療機器、繊維など)、主にグリースや潤滑剤として、また添加剤、加工助剤、表面処理などにも使用されている。
PFPEは、自然条件下では化学的に不活性で、高い熱安定性を持つと考えられている。PFPEの劣化のメカニズムや速度は、使用される用途によって異なるが、PFPE潤滑剤の劣化の原因には、熱分解、触媒分解、機械的切断、摩擦帯電分解などがあり、ポリマーの分子量と末端基によっても異なるが、ルイス酸の存在により、特定のPFPEの熱安定性が低下することがある。
PFPEの環境中への放出に関する研究は限られているが、米国の土壌や水、イタリアの河川から検出されている。また、市販のPFPE配合物には、その他のPFASが含まれているが、PFAS不純物の包括的な概要を提供する公開情報は限られている。
まとめ
世界の市場には多様な PFPE が存在し、さまざまな産業用途や消費者製品で広く使用されている。 PFPEは合成プロセス等に基づいて区別され、4つの主要なファミリーに分類できる。
PFPE の生産量は、多くの場合、機密情報として明確になっていない。
PFPE は一般に安定と考えられており、高い熱安定性を示す。しかし、ルイス酸触媒分解に対して脆弱であり、また使用中にいくつかの分解メカニズムが発生する可能性があり、PFPEの分解は用途やプロセスに依存している。PFPE 潤滑剤の分解として考えられるメカニズムには、熱分解、触媒分解、機械的切断、摩擦帯電分解等がある。PFPEの環境放出に関する情報は限定的であるが、米国やイタリアの土壌や河川で検出されており、今後さまざまな濃度で検出される可能性がある。

参考資料

米国

米国環境保護庁(EPA)は、Tris(2-chloroethyl) phosphate (TCEP)を有害物質規制法(TSCA)の下で評価し、TCEPがヒトおよび環境に対してリスクがあると結論した。

背景

    米国内のTCEP生産は2014年以降、約99%減少しているが、今なお航空宇宙機器に使用されるポリマーの難燃剤・可塑剤として、また、塗料やコーティング剤における難燃剤として使用されている。また、TCEPはこれまで繊維、織物、建築資材などに使用されており、これらの製品の一部は現在も使用されている可能性がある。TCEPは輸入品にも含まれている可能性がある。 2019年12月に、米国EPAはTCEPをTSCA評価の優先物質に指定し、リスク評価を開始した。

環境挙動

    TCEPはポリマーに混合されるが、化学的に結合していないため、製品から環境中に浸出する。製造工程や最終製品から浸出したTCEPは、水、堆積物、土壌、屋内のほこり等に蓄積される。埋立地に廃棄された材料から浸出したTCEPは、地下水や表層水に到達する可能性がある。また、TCEPは製造・工業プロセス、野焼き等から大気中に放出されることもあり、大気中に放出された場合、雨や降雪を通じて湖や河川に集積する。また、空気や水を介して長距離輸送される可能性もある。TCEPは、カーペットや木製家具などの消費者製品からも浸出し、家庭のほこりに付着する可能性がある。

ヒト健康影響

    神経系・生殖器系の障害、腎臓がんや腎臓の非腫瘍性病変の発生が懸念される。これは、ヒトの疫学研究と動物試験に基づいており、TCEPの急性ばく露による神経系への影響、亜急性・慢性ばく露による生殖器系への影響、TCEPの長期間ばく露による腎臓がんの発生である。これらの影響は、TCEPを含む液体製剤を取り扱う作業者(皮膚への接触、吸入ばく露)、消費者製品から放出されるTCEPを含有するほこりの吸入、TCEPに汚染された魚の摂取等により発生することが懸念される。

環境影響

    TCEPを含む材料の製造、加工、または使用される際に、水中に浸出・放出されたTCEPの水生環境生物へのばく露影響を評価した結果、魚類、無脊椎動物、藻類、底生生物(堆積物に生息する生物)について、リスクがあると評価している。

    米国EPAは、TCEPによってもたらされるリスクに対処するために、リスク管理を進める予定で、TSCA第6条に基づき、EPAが特定したリスクから人々と環境を保護するための規則案を発表する予定である。

米国環境保護庁(EPA)は、N-メチルピロリドン(NMP)ばく露に対する作業者や消費者の健康保護のための有害物質規制法(TSCA)における規則案を発表した。

用途

    NMPは溶剤として、電子機器、ポリマー、農薬および石油化学製品の製造に広く使用されている。具体的には、半導体やマグネットワイヤなどの特殊な電子機器の製造、航空機や電子機器に使用されるリチウムイオン電池の製造、接着剤やシーラント、塗料やコーティング剤、塗料剥離剤、潤滑剤、自動車ケア製品、脱脂剤、清掃用品、家具ケア製品などで、さまざまな用途がある。

ヒト健康影響

    慢性的なばく露による生殖器系への影響として、男性の生殖能力の低下、女性の受胎能力の低下、胎児体重の低下など知られており、また、肝臓、腎臓、免疫系、神経系の障害が懸念される。

規制案
  • 消費者: 接着剤やシーラントからのNMPばく露を軽減するために、EPAはNMPの濃度を45%以下に制限し、他の消費者製品に対しては、容器サイズの制限、ラベル表示などの使用時のリスク防止対策を提案している。

  • 作業者: EPAは、ほぼすべての産業・商業用途において作業場化学物質保護プログラム(workplace chemical protection program、WCPP)を要求しており、作業者がNMPとの直接接触しないよう皮膚接触を防ぐ要件が含まれている。例えば、半導体やリチウムイオン電池製造部門における作業の機械化、閉鎖・自動化ツール、クリーンルーム等である。また、多くの用途(塗料、接着剤、インク、コーティング剤、はんだ材料の使用など)については、濃度の制限や個人用保護具の使用を含む職場管理を要求している。 さらに、安全性が担保できないと考えられる用途として、自動車ケア製品、清掃・脱脂製品、金属製品、家具ケア製品、アンチフリーズ・除氷製品、潤滑剤、肥料や農薬製造プロセス等において禁止されている。

参考資料

米国食品医薬品庁(FDA)は、ペルフルオロ及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)を含む耐油剤を用いた食品包装や板紙包装の販売を、製造業者が自主的に停止したことを公表した。

FDAは2020年に、上市後の安全性評価に基づいて、特定の種類のPFASを含む耐油剤(grease-proofing agents)注)の食品包装等の食品接触用途について、製造業者から米国での販売停止に関するコミットメントを得ていた。
今回の発表は、これらの自主的なコミットメントを達成したことを示している。また、FDAは、異なる種類のPFASについても食品接触用途での販売を停止したことを確認したと述べている。

これらの食品接触用途について、最終販売日から市場供給分を消耗するまで約18ヶ月かかる可能性があるが、多くの製造業者は停止期限日よりも前に市場から撤退している。今後、FDAは、食品包装におけるPFASの使用を監視するための分析方法を開発する予定である。

注)耐油剤(grease-proofing agents)は、紙や紙板包装に塗布され、グリースや油の漏れを防ぎ、耐水性を持たせるために使用されている。PFASを含む物質は、ファストフードの包装紙、電子レンジ用ポップコーン袋、テイクアウト用紙製容器、ペットフード袋に使用されていた。

参考資料

カナダ

カナダの環境・保健省は、N-メチルピロリドン等の2物質について、ヒト健康影響が懸念されることから、カナダ環境保護法(CEPA)の有害物質リスト(スケジュール1)に収載することを提案している。

対象物質
  • N-メチルピロリドン(CAS RN 872-50-4、N-methylpyrrolidone、NMP)
  • N-エチルピロリドン(CAS RN 2687-91-4、N-ethylpyrrolidone、NEP)
       

いずれも自然界には存在しない人工的な化学物質である。電気・電子製品、金属製品、鉱業製品、紙製品、プラスチック・ゴム材料の製造等に広く用いられており、接着剤やシーリング材、自動車用内装クリーナー、清掃・脱脂製品、塗料・コーティング、ペイントリムーバー等に含まれている。また、NMPは、パーソナルケア製品、ネイルケア、まつ毛接着剤や接着剤除去剤、ヘア製品にも含まれ、害虫駆除製品の成分としても使用されている。

NEPは、化学品の製造、接着剤やシーリング材、塗料・コーティング、プラスチック・ゴム材料の製造に使用されている。

有害性について

    NMPの消費者へのばく露は、接着剤、パーソナルケア製品等の消費者向け製品の使用によるもので、経皮ばく露、吸入ばく露の可能性が考えられる。NEPに関しては、消費者製品に含まれないため、ばく露される懸念は低いと考えられる。

    NMPの吸入ばく露については、ラットの生殖試験における着床率の低下から、無毒性量は437mg/L(吸入ばく露、ヒト換算値)と推定されている。また、経皮ばく露については、ラットの繁殖性試験において、雄の生殖能への影響が認められたことから、無毒性量は6.5mg/kg体重/日(ヒト換算値)と推定されている。一方、ヒトのばく露量については、甲板工事用接着剤では18.63mg/L(吸入)、自動車内装クリーナーでは0.26mg/L(吸入)、リンスでは0.03mg/kg体重/日(経皮)、まつ毛用接着剤では0.02mg/kg体重/日(経皮)と推定される。一部の製品では吸入ばく露量が多いことから、安全性が担保できないと判断されている。

カナダの環境・保健省は、アルミニウム化合物の2物質について、ヒト健康影響が懸念されることから、カナダ環境保護法(CEPA)の有害物質リスト(スケジュール1)に収載することを提案している。

背景

    カナダ当局は、アルミニウム化合物として55物質に焦点を当て、ばく露や有害性について検討しており、その結果、2物質についてはリスクがあると判断している。 これら55種類のアルミニウム化合物は、アート・クラフト等の趣味の材料、自動車、建築資材、 インク、トナー、着色料、パーソナルケア製品(化粧品、天然健康食品、非処方医薬品)、塗料・コーティング、害虫駆除製品、プラスチック、 テキスタイル等の様々な製品に含まれている。

対象物質
  • 塩化アルミニウム(CAS RN 1327-41-9、aluminum hydroxychloride)
  • 塩化アルミニウム5水酸化物(CAS RN 12042-91-0、aluminum chlorohydrate)
  • 固形分離剤および処理補助剤として使用されており、多くの産業用途にも使用されている。また、制汗剤や消臭剤の成分として使用されている。

有害性について

    上記2物質は、エアロゾル除菌剤や制汗剤に含まれることから、消費者はこれらの製品の使用時にばく露される可能性がある。これらの物質は、ラットにおける6か月間反復吸入ばく露において、肺や気管支リンパ節の肉芽腫性肺炎が発生することが知られており、無毒性量は0.045mg/m3(ヒト換算値)とされている。一方、エアロゾル除菌剤/制汗剤の使用によるヒトのばく露量は、エアロゾル制汗剤で0.012~0.014mg/m3と推定され、無毒性量とヒトばく露量を比較すると、3倍程度のばく露マージンしかないことから、安全性が担保できないと判断されている。

欧州

欧州化学品庁(ECHA)は、6物質についてREACH規制の高懸念物質リスト(SVHC)に追加する予定である。

6-[(C10-C13)-alkyl-(branched, unsaturated)-2,5-dioxopyrrolidin-1-yl]hexanoic acid (別名Tetra-PSCA) (CAS RN 2156592-54-8)
  • 用途:Tetra-PSCAは潤滑油、グリース、離型剤、金属加工液に使用される。消費者向けの使用はない。
  • 有害性:生殖毒性区分1Bに分類され、生殖能力に悪影響を及ぼす可能性、胎児に悪影響を及ぼす可能性がある。PBT物質(難分解性、生体蓄積性、毒性を示す物質)、vPvB物質(極めて残留性や生体蓄積性の高い物質)には該当しない。
O,O,O-triphenyl phosphorothioate (CAS RN 597-82-0)
  • 用途:産業・業務用途として、潤滑油、グリース、油圧作動油、金属加工液等に使用され、消費者製品でも、潤滑油やグリースとして、電気ヒーター、自動車のサスペンション、モーターオイル、ブレーキ液に使用される。
  • 有害性:CMR等のヒト健康影響は認められない。生分解性については、61日間で大幅な水中分解はなく、水中半減期が60日を超えていた(Pに該当)。生体蓄積性については、BCF(生物濃縮係数)は2000L/kgを超えていた(Bに該当)。有害については、魚類の初期生活段階試験において、NOEC(無影響濃度)は1.7µg/Lであり、10 µg/Lを大きく下回った(Tに該当)。PBT物質に該当する。
Octamethyltrisiloxane (CAS RN 107-51-7)
  • 用途:中間体やモノマーとして、また、洗浄・クリーニング製品、塗装・ペイント、シンナー、ペイントリムーバー、充填剤、パテ、石膏、モデリングクレイ、インク・トナー、シーラント・接着剤等、また、化粧品やパーソナルケア製品にも用いられる。
  • 有害性:CMR等のヒト健康影響は認められない。環境影響について、水中では28日で分解せず、土壌中でも半減期は180日以上と推定された(vPに該当)、魚におけるBCFは9,615~17,146L/kgであった(vBに該当)。vPvB物質に該当する。
Perfluamine (CAS RN 338-83-0)
  • 用途:1980年代には代替血液として検討されたが、現在は、半導体製造における熱伝達液や半導体デバイスの熱試験、半導体デバイスやサーバーの浸漬冷却に用いられる。消費者製品での用途はない。
  • 有害性:CMR等のヒト健康影響は認められない。大気中での半減期は1000年以上と推定され、水中では21日後に分解はなく、分解半減期が60日以上、堆積物または土壌での分解半減期が180日以上であった(vPに該当)。魚類におけるBCFは5,527L/kg~51,602L/kgであった(vBに該当)。vPvB物質に該当する。
Reaction mass of: triphenylthiophosphate and tertiary butylated phenyl derivatives (CAS RN 192268-65-8)
  • 用途:産業・業務用として、金属加工用流体、油圧流体、潤滑剤・グリース、冷蔵庫の冷却液、油ベースの電気ヒーター、自動車のサスペンションにおける油圧液、エンジンオイル・ブレーキ液の潤滑剤として使用される。消費者製品でも用途はない。
  • 有害性:CMR等のヒト健康影響は認められない。水中では61日間にわたって顕著な分解は見られず、水中半減期は60日を大幅に超えていた(Pに該当)。コイの生物濃縮試験では、BCFが2000L/kgを超えていた(Bに該当)。ニジマスを用いた魚類の初期生活段階試験におけるNOEC(無影響濃度)は1.7µg/Lであった(Tに該当)。PBT物質に該当する。
Tris(4-nonylphenyl, branched and linear) phosphite (CAS RN なし)
  • 用途:ポリマーの抗酸化剤として、ポリマー、接着剤・シーラント、コーティング製品に含まれ、産業・業務用、消費者製品に用いられている。
  • 有害性:CMR等のヒト健康有害性はなく、PBT、vPvBには該当しない。一方、Tris(4-nonylphenyl, branched and linear) phosphiteは、環境中でホスファイト基の加水分解により4-ノニルフェノールが放出されると予想され、環境中で4-ノニルフェノールの発生源になる可能性があることから、内分泌かく乱特性を有する物質と考えられた。

参考資料

欧州化学品庁(ECHA)は、有害化学物質からヒトや環境を保護するために必要な科学研究分野について、詳細な報告書を公表した。

ECHAは、持続可能な化学戦略を考慮して、以下の分野においてさらなる科学研究が必要と述べている。

有害な化学物質の検出

    特に、免疫系、神経系、および内分泌系への影響について、有害な化学物質を特定する必要性を強調している。これらの危険性を特定し、安全な使用や規制措置を講じるため、試験方法の開発、作用のメカニズムの解明、リスク管理が重要となる。

  • キーワード:神経毒性、免疫毒性、内分泌かく乱
環境中の化学物質への対応

    化学物質による環境汚染は、生態系の破壊と生物多様性の喪失の主な要因となっている。生態系に対するリスク管理として、化学物質と生態系の種々の相互作用に対処できる、in vitro試験やコンピュータシミュレーション等の新しいアプローチ方法の開発が必要である。また、ミツバチ以外の送粉昆虫が殺生物剤の有効成分に対してどの程度敏感であるかを理解することや、シロキサンなどの特定の有害化学物質をモニタリングする必要がある。

  • キーワード:生物蓄積性、非ミツバチ送粉昆虫、生物多様性、環境モニタリング
動物実験の代替

    動物実験を最小限に抑え、可能な限り動物実験から脱却するため、動物実験に代わる代替試験法を確立することが重要である。現在のin vivo試験を代替または削減するためのin vitro試験やin silico法の開発、リードアクロス、ADME(吸収、分布、代謝、排泄)や生理学ベースの動態モデル、短期・長期の魚類毒性、発がん性など、さまざまな分野での研究が必要となる。

  • キーワード:リードアクロス、In vitro/in silico、ADMEや生理学ベースの動態モデル、短期・長期の魚類毒性、発がん性
リスク評価手法の拡充、新規化学物質への対応

    これまでの化学物質の管理は、最新の知識に基づいて、化学物質のリスクを適切に評価することにより、豊富な情報を蓄積してきた。しかし、多くの化学物質については依然として情報が不足している。特にポリマーやナノ材料、制限化学物質や認可対象化学物質の存在を適切に評価するための分析方法である。

  • キーワード:ポリマー、マイクロ・ナノ材料、新しい分析方法

欧州理事会は、歯科用アマルガムの使用を全面的に禁止し、その他の水銀添加製品の製造、輸出入を禁止する規則を採択した。

歯科用アマルガム

    現在の規則では、15歳未満の子供、妊娠中または授乳中の女性の歯の治療に歯科用アマルガムを使用することは禁止されている。新しい規則では、2025年1月1日以降、EU域内のすべての人に対して禁止が拡大される。ただし、歯科用アマルガムの使用が患者の医療ニーズに対応するために必要であると見なされた場合は除外される。 歯科用アマルガムは、患者の水銀ばく露ばかりでなく、火葬場において大気中に放出される水銀の汚染も問題にしており、火葬場からの水銀の排出削減技術についてガイダンス等が必要と述べられている。

その他の水銀製品

    2025年12月31日~2026年12月31日までに、さらに6種類の水銀含有ランプの製造、輸出入が禁止の対象となる。(下記は対象製品、禁⽌⽇)

  • 一般照明用のその他のコンパクト蛍光ランプ(2025年12月31日)
  • 一般照明用の三波長蛍光ランプ(2026年12月31日)
  • 一般照明用のハロリン酸塩蛍光ランプ(2025年12月31日)
  • 非線形三波長蛍光ランプ(2026年12月31日)
  • 非線形ハロリン酸塩蛍光ランプ(2025年12月31日)
  • 一般照明用の高圧ナトリウム(蒸気)ランプ(2025年12月31日)

参考資料

欧州委員会は、有害化学物質の「エッセンシャルユース」の基準に関するガイドラインと原則を公表した。

背景

    持続可能な化学物質戦略は、化学物質を設計段階から安全で持続可能なものにするための行動を示し、化学物質が将来に渡り有害な影響を与えないよう、安全で持続可能な化学物質への切替えを促進することを目指している。これには、育児用品、食品接触材料、テキスタイルなどの消費者製品において有害化学物質の使用を禁止することが含まれている。


    「エッセンシャルユース」の概念とは、有害化学物質が安全に使用でき、社会の機能維持に重要であり、また代替手段がない場合、その物質はある一定期間その目的のために使用することが許されるものである。


    化学物質は、消費者製品だけでなく、電子機器、電気自動車用のバッテリーを含む交通機関、建築材料など、社会の維持に必須要素となっている。一方で、有害化学物質にばく露されることは、食品や水の汚染により、重篤な健康影響や長期的な環境影響を引き起こす可能性がある。有害化学物質の段階的な廃止を通じて、ヒトと環境の保護レベルを向上させ、より安全で革新的な解決策への投資を奨励することが重要であるが、持続可能な化学物質戦略の一環として、有害な化学物質であっても、社会にとって不可欠である場合にのみ許可されるとの概念が必要である。

エッセンシャルユースとは
  • 基準 : 次の2つの基準を満たす場合に、「エッセンシャルユース」と判断される。

  • 1)健康あるいは安全にとって必要である、あるいは社会機能にとって重要であること

    2)条件を満たす代替品がないこと


    有害化学物質の使用が、健康や安全に必要であるか、または社会の機能にとって重要である場合、かつ、受け入れ可能な代替手段が存在しない場合に限り、その使用が必須であるとされる。エッセンシャルユースと判断されるには、これら2つの基準を満す必要がある。


  • 用途の範囲 : 有害化学物質の使用が社会にとって不可欠であるかどうかを決定するもので、ある物質の使用が、ある状況では必要であるが、別の場合にはそうでない場合もあり、あるセクター内ですべての使用が重要であるとは限らない。

  • 有害化学物質とは : 残留性や蓄積性がある物質、がんを引き起こす物質、遺伝子変異を引き起こす物質、生殖器や内分泌系に影響を与える物質、免疫、神経、呼吸器系に影響を与える物質、特定の器官に有毒な物質、また、残留性や移動性のある物質も評価の対象となる。

  • 健康や安全に必要/社会の機能にとって重要とは : 健康や安全に必要とされるもの、または社会の機能にとって重要とされるものとして考えられる基準は、社会の機能を維持するために必要なリソースやサービスを提供するものとされ、例えば、エネルギー、交通、医療、デジタル技術などの分野において、社会に安全を提供するためのインフラや設備等が含まれる。

参考資料

欧州化学品庁(ECHA)は、2物質についてREACH規制の高懸念物質リスト(SVHC)に追加する予定である。

ビス(α,α-ジメチルベンジル)ペルオキシド
  • CAS RN 80-43-3
  • 用途:工業用として、ポリマーやゴム等の製造(反応補助剤、重合開始剤、架橋剤等)に用いられるため、木材(床、家具、おもちゃ)、石材、石膏、セメント、ガラス、セラミックス(皿、鍋、食品保存容器、建材)、プラスチック(食品包装、おもちゃ、携帯電話)等の製品に含まれている。
  • 生殖毒性が懸念される。(区分1Bに分類される)
トリフェニルホスフェート
  • CAS RN 115-86-6
  • 用途:可塑剤や有機リン系難燃剤として、プラスチック、ゴム製品、接着剤、シーラント等に用いられている。
  • 環境生物に対する内分泌かく乱作用が懸念される。in vitro試験において、エストロゲン活性が認められ、魚類の繁殖性に関する研究では、生殖細胞の成熟阻害、受精率の低下等が認められている。

参考資料

欧州委員会共同研究センター(JRC:Joint Research Centre, European Commission)は、自動車等のタイヤの摩耗によりマイクロプラスチックが発生し、環境汚染の原因となり得るとする研究報告を発表した。

タイヤの摩耗により発生するタイヤ粒子は、タイヤトレッドと道路表面との摩擦によって生成され、環境に放出されるマイクロプラスチックの重要な発生源となっている。これは全マイクロプラスチックの約1/3~1/2と推定される。これらのタイヤ粒子の大部分は雨水等により土壌や水系に拡散し、少量は大気中に放出される。

欧州では年間に50万トン以上、世界では600万トン以上のタイヤ粒子が排出されていると推定される。排出されるタイヤ粒子の質量分布は通常2峰性で、20〜200μmおよび2〜10μmにピークがある。これらタイヤ粒子は、自動車等から発生する粒子状物質(PM)の5~30%と推定され、環境全体のPM排出の約5%に相当する。

これらの推定値はさまざまな変動要因を含んでいるが、排出量はタイヤ、道路、車両、運転スタイル、および環境などに依存している。摩耗率は、タイヤの重量と走行距離から算出でき、PMは車輪に近い場所でサンプリングすることで測定可能である。乗用車のタイヤ摩耗に関する実車測定(オンロード測定)では、摩耗量は110 mg/km/車両または68 mg/km/tであるとされている。PM10の排出は1.4~2.2 mg/km/タイヤで、粒子数は約1010 #/km/タイヤであった。PM10の比率は約2.5%であり、この内の約40%がPM2.5と推定された(PM2.5/PM10比)。ただし、オンロード測定では、測定に影響する可能性があるバックグラウンド粒子、再浮遊粒子、道路の摩耗、ブレーキ粒子等の問題があること、また、オートバイ、小型商用車、バス、トラックについてはほとんどデータがない等の課題も多い。

タイヤ摩耗への対策については、現状では、タイヤ製造時の油中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の制限、およびEuro 7規制によるタイヤ摩耗率の低減が提案されているが、タイヤ粒子による環境影響を軽減するためには、粒子の発生を抑制し、発生した粒子を回収する新たな技術が必要である。

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